「あ゛ぁ゛!?やんのかテメェ!!行けザングース!!!」
投げられたポケモンボールが空中で光を放ち、中から白い体毛に鮮やかな赤のラインが入ったポケモンが現れ、黒の鋭い爪とまなこを光らせ、大きく吼えて相手を威嚇した。
「切り裂いてやれ!!!」
赤い髪をなびかせながら、ザングースと一緒に走り出し、相手の不良の鼻っ柱を目掛けて殴り掛かる。
「(あーあ、また始まった。)」
小さなポケモンを両腕で胸に抱えた、綺麗なピンク色の髪の小柄な少年が、心の中でぼやいた。
数メーターの距離を離れ、大人しくしゃがんで観戦する。
腕の中のポケモン、薄いピンク色のニャスパーは、『行け行け!やっちまえー!』と言わんばかりに興奮し、両腕と声を上げ暴れていた。
その少年、トワレの前には、アブソルが静かに座っている。
アブソルの持ち主は、斜め前で同じように静かに観戦していた。
トワレがバトルの被害を被らないようにしているのだ。
バトルをふっかけた青年、レドの命でもあるのだろう。
こうしてレドが暴れる時は決まって、騒ぎが大きくなりすぎないよう監視しつつトワレを護るのが彼、ライハの役目なのだ。
レドとライハは幼馴染で、二人はアクセルとブレーキのような関係だ。
喧嘩を終えたらしいレドが、切った口角を押さえながらこっちへ歩いてきた。
ライハがレドに向かって、自分の胸を横に撫でるような仕草をする。
それを見たレドはにっと笑って、自分の胸を左、右と軽く叩くような仕草で返した。
俺には、二人がどんな会話をしているのかは分からない。
でも別に気にはならない、これがいつもの光景だから。
その場に座り込み、「あの頃もこんな事があったなー!いやあ懐かしい!あれは俺とライハがまだ旅をしていた頃だ・・・・・・」と、レドが独り言のように昔話を始めた。
楽しそうに笑いながら語るレドの横で、それを眺めてライハが薄く微笑んでいる。
俺もいつもの顔でレドの話を聞く。
二人はコガネシティの生まれで、ここまで二人で旅をしてきた事、
その旅の途中、色んな事があったんだとひとつひとつ、それは楽しそうに話している。
話の途中で、ヨマワルがふわふわと近寄ってきた。
「お、帰ったか。」
レドが向いた方向には、真っ黒な服を着た、薄気味の悪い少年がぬらりと立っている。
彼はもう一人のメンバーのブルク。
正直俺は、こいつの事がよく分かってない上に、少し苦手だ。
ある日レドが「捕獲した!」と、ぐったりした彼を担いで連れてきたのだが、自分の居心地のいい場所に邪魔が入ったような、モヤモヤとした気分でいる。
ブルクの事をじっと睨んでいると、ちょんちょんと肩をつつかれた。
振り返ると、顔の前にずいっとメモが開かれたタブレットを突き付けられている。
『体調、悪いのか?』
タブレットの奥には、少し心配そうな顔をしたライハが、じっとこっちを見ている。
あせあせと携帯を取り出し、メール画面に『大丈夫』と打ち、見せる。
すると、『無理はするなよ』と打ち直し、また見せてきた。
ライハは、生まれつき耳が聞こえない。故に会話はいつもこんな感じだ。
「何内緒話してるんだよ~?」
わしわしと頭を撫でられ、トワレとライハの肩を組んで間にレドが入ってきた。
「全員揃ったし、飯行こうぜ!」
と笑いながらレドが言うと、トワレとライハは同時に頷いた。