「白と緑で小さなブーケを作ってちょうだい。費用は・・・そうね、これくらいで」
「かしこまりました」
とある曇り空の日、ジェイドは花屋に居た。
ブーケができるまでの待ち時間、そわそわと首から下げたリングを指で弄っていた。
「お待たせしました、いかがでしょうか?」
「・・・うん、いいわね、とても綺麗。ありがとう。」
「いえいえ、ありがとうございます。メッセージカードなどはお付けしますか?」
「・・・いいえ、いいわ。」
心の中で、『だって、届かないもの。』と補足し、ブーケを買い取って花屋を後にする。
花を手に次に向かったのは墓地。
奥の方まで歩いてゆき、墓石の前に花を手向け、目を閉じそっと俯いた。
優しく触れた石には、『ニア』と刻まれている。
その文字をじっと見つめ、何かを深く考え込んでいるようだった。
「やっぱりここに居たか」
「・・・オード」
声を掛けて来たのは、幼馴染の青年、オード。
好青年という言葉が似合いの、人の良い真っ青な髪をした青年だ。
今はポケモンソムリエとして、各地を飛び回っているらしい。
「店に居なかったから」
「看板、掛けてあったでしょ」
「そうだっけ」
「・・・アタシに、何か用事だったかしら?」
「用って程でもないんだ、ただ近くを通り掛かったから、顔を見て行こうかなってだけさ」
「そう。ならアタシの用も済んだし、育て屋へ行きましょうか。お茶くらい出すわよ」
「ありがとう」
「はい、粗茶ですがどーぞ」
「いただきます」
「ソーダが好きなんだったかしら?生憎今は切らしててね、急に来るから・・・」
「いいよ気は遣わなくて。急に押し掛けて悪いね。そうだ、久々に君のポケモン達とも挨拶したいな」
「あっ、そうね!この子達もきっと喜ぶわ」
それぞれ違う柄のボールからポケモン達を出してやる。
柄が違うのは、預かっていたポケモンを、諸事情によりそのまま引き取ったからだ。
元々のジェイドの手持ちはジャローダ一匹だった。
「こんにちは、久しぶりだね」
オードがポケモン達に挨拶すると、ポケモン達も元気よく挨拶し、思い思いに喋り始めた。
「待って待って、一人ずつね」
ポケモン達は、オードがポケモンと会話できる事を覚えているので、温めておいた言いたかった話が沢山あるようだ。
そんな所だろうとジェイドも察しがついており、やや苦笑いで机に頬杖をついて眺めている。
しばらく聞いていると、三匹の鳴き声が綺麗に揃った瞬間があった。
それを聞いて、オードが固まっている。
「・・・? どうしたの?」
「いや・・・えっと・・・」
「・・・?」
ジェイドはオードの迷っているような苦笑いと、三匹の寂しそうな表情を見て、小さくため息をついた。
「・・・言って。察しはついてるわ。あたしはもう振り返らない、この子達とただ先を歩むの。だから大丈夫。」
「でもジェイド・・・」
「アンタが怖がっててどうすんのよ。それは、あなたに授けられた使命なのよ。あたしにはこの子達の声は聞こえないの。」
「・・・・・・。」
「お願い、教えて。」
オードを真っ直ぐに見据え、言う。
その目を見て、おずおずと口を開く。
「この子達は・・・君のパートナーに・・・・ニアに会いたがっている。寂しいって、言ってるよ。」
そこまで言うと、苦しそうにぎゅっと口を噤んだ。
「そう・・・やっぱり・・・ごめんなさいね、そればっかりはどうにも・・・・・・」
ジェイドは、言葉を潰すようにぎゅっと下唇を噛む。
「・・・いいえ、私も・・・私も、ニアにとても会いたいわ・・・一緒ね。」
To be continued. ⇒『言質』