「あっ!パワースポット探しマシーンがまた反応してる!」
少年がスマホロトムの画面を見ると、マップ上にマークが点滅している。
「次は・・・キルクスタウン、エラドポケモン研究所だ!」
事は数時間前に遡る、
街中で突如現れ、混乱を巻き起こした野生のダイマックスポケモン、
あちこちのジムでも同じ事が起こり、リーグチャレンジ中の少年はダイマックスしたポケモンを大人しくさせるべくガラルを飛び回っていた。
ポケモンの背から飛び降り、積もった雪を踏みしめると、少年は研究所へ駆け出し扉を開いた。
そこには、この研究所に住んでいるエラド博士と、ジルの姿があった。
二人は元ライバルの旧友で、研究所にジルが居る事はいつもの事だ。そこは何ら不思議ではない。
「おや、どうされたんです?博士にご用ですか?」
ジルが少年に向き直り、穏やかな笑顔を見せた。
「え!?いや、ダイマックスしたポケモンは・・・・」
「あぁ、わたしと博士で大人しくさせましたよ。ダイマックスしていたポケモンは博士が預かっています」
エラド博士の足元を見ると、少し元気の無さそうなポケモンがしがみついている。
「大人しく・・・そう・・ですか・・・・」
「うーん、折角来ていただいた事ですし、バトルして行きませんか?」
「えっ?」
ジルがそう言うと、エラドの背をぐいっと押した。
「博士と。」
「俺かよ」
今日、初めてエラドが口を開いた。
外に出て少年とエラドが距離を取って向き合う。
「あ、ちなみに博士は強いですよ~、頑張ってくださーい」
少し離れた場所からジルが言った。
強い、ね・・・ と少年は肩を回す。
スクールを首席で卒業し、校長から直々にリーグチャレンジの推薦状を貰ったエリートの少年は、そのプライドを熱く燃やした。
対してエラドは、鋭い視線でキッと少年を静かに見つめている。
「よし、いけ!エースバーン!」
「行け、インテレオン」
正々堂々、一体一の真剣勝負が幕を開けた。
「・・・・・・っ!」
目の前が真っ暗になった。
少年の手元には、もう戦えるポケモンが居ない。
「勝者、エラド博士~」
パチパチ、と拍手しながらジルが二人に歩み寄る。
ふむ、と少年を見て考え込んでいたエラドも口を開く。
「ポケモンの育て方は悪くないが指示が甘いな。何と対峙しても対応できるよう、手持ちだけでなく他のポケモンもよく見ておくべきだ、図鑑は完成させたのか?」
少年のポケモン図鑑は惜しくも完成はしていない。
「・・・いえ」
その一言で、エラドは溜め息をついた。
「今まで何してたんだ?こんな事してる場合か、帰れ」
それだけ言って、エラドは研究所へすたすたと戻って行った。
ポケモン勝負をボロ負かされ、冷たい言葉を浴びせられ、正直もう心はズタズタだ。
「手厳しいですねぇ」
エラドの背を見送るジルが言う。
「すみませんね、折角助けに来てくださったのに。
これ、わたしのレアリーグカードです、困ったらいつでも呼んでくださいね。」
キラキラと光る一枚のカードを手渡される。
「ありがとう、ございます・・・」
ふふ、とジルが微笑み、ごそごそとまた何かを漁る。
「あとこれも、今は手に入らない博士の昔のリーグカードです」
特別ですよ、ともう一枚カードを手渡される。
そこには、少年時代のエラドの写真が印刷されていた。顔は今とあまり変わってない。
見るに、リーグチャレンジ中の写真だろうか?
「言ってなかったんですけど博士ね、当時決勝戦まで勝ち進んだんですよ」
さらっと凄い事を言われた。そりゃ強いわ。
「あんな感じですけど、どうか博士を嫌いにならないで、これからもよろしくお願いしますね」
にっこりと微笑み右手を差し出されたので、おずおずと握り返した。