――中学の頃に初めて付き合った彼氏と別れたのは、もうずっと前の事だった。

何考えてるか分からないから終わりにしようって。

それがショックで、おれは誰より寂しがりなのに、

新しい恋人をわざわざ自分からつくる気にもなれなくて。

 

隣は寒々としたまま春、おれは高校生になった。

実家を出てひとり、友達も居ない地域に越して、全寮制の『私立卯月男子高校』へ入学した。

半分はヤケっぱちだった。だけどもう半分は、自由を手にしてみたいとか、

何か新しい事が始まる気がしてとかって理由だった。

 

ひと学年に4つずつあるクラスも、自由度が高いと評判のクラスを選択。

ガラが悪いクラスは怖いから、美容やデザインが学べるというCクラスへ。

部活は、クラスでの自己紹介が終わった後に先生に紹介された放送部に入った。

関西訛りが混じるにも関わらず、声が聞き取りやすくて綺麗だって言ってくれて。

元々声優なんかが好きだし、小さなサイトだけど朗読などの声で活動してみた事もあった。

高評価のコメントもいくつか付いて、やりがいがあって楽しかったし、自分の声は好きだから。

 

ばたばたしていた入寮や、クラスや授業の最初の段取りも片付き、本格的に部活が始まりだした頃、

当時2年生だった、同じ放送部の先輩に突然告白された。一目惚れだったと。

友達が沢山いて、部活でも頼られる先輩に告白されて嬉しかった。

静かに舞い上がったりして、おれは告白をOKした。

 

至って良好な関係を続け、半年とちょっと。

愚かにも人は、今よりもっと幸せになる事を求め続けるもので、

寂しがりなおれは、身体ばかり求めてくる先輩に、心や愛を要求するようになった。

分かったよと言う声は渋々だった割に、最初のうちは頑張っておれを甘やかしたりしてくれた。

それも段々、疲れたように元に戻っていき、ずるずると2年生になった春に別れを告げられた。

先輩は最後まで優しく、俺が不甲斐ないからお前に寂しい思いをさせてごめんなって、

俺と別れたらもっと優しい人を見つけてね、これで終わりにするからお願い、最後に抱かせてって。

最後に先輩の部屋で肌を重ねてから、先輩は放送部にも顔を出さなくなって、会う事もなくなってしまった。

 

それから1ヶ月、放送部の後輩達が部室に小さく集まり、皆で何かを見ているようだった。

「・・・? おはよ、何見とるん?」

「せ、先輩!なな、何でもないっすよ!!・・あっ!」

大焦りで何かを誤魔化すと、持っていた携帯が手から滑り落ち、おれの足にこつんとぶつかった。

「ちょっと、大事にしないと割れんで・・・・・・・え・・・?」

携帯には、動きを止めないままの動画が流れている。さてはAVでも見てたな?と手に取り

何気なく画面見ているとそこに写っていたのは、おれと別れた先輩のハメ撮り動画だった。

アングル的にも隠し撮りだし、勿論おれ自身にも身に覚えが無い。でも間違いはなかった。

「あの・・・せ、先輩・・・・・」

「自分ら、これどうしたん?見た感じどっかのサイトやんな・・?」

流れていた動画から軽くスクロールすると、他にも似たような動画が並んでいるようだった。

「先輩に、オカズにでもしろよってURL教えてもらって・・」

おれを、オカズにだと・・・?後輩の生々しい言葉に、

何かを期待しているかのような熱い視線に、顔がぼっと熱くなった。

「・・・っ!」

真っ赤な顔のまま、動画の削除のしかたを探していると、

部室のドアが背後で開き、こ~のちゃ~~~ん。と品のない男の声に呼ばれて振り返る。

ぞろぞろと部室に入り込んで来た4、5人の男はみな知らない顔だが、

必ず装着せよと言われている胸ポケットの細いバッジを見ると全員が3年生、先輩のようだ。

ふ~~ん。と言いながら全員がおれの全身をジロジロと眺めてにやにやしている。

「あの、何でしょうか・・?放送部じゃない先輩達が一体・・・」

ネクタイの色を見るに全員Dクラスで、背も体格も大きくガラが悪い。

軽く睨むようにして見上げ目的を聞こうとしていると、腕を強く掴み挙げられ

少しバランスを崩した所をもう片手で腰をぐいっと引き寄せられる。

「いっ・・・!」

おれの腹に、ゴリ・・とグロテスクな感触が触れ、思わず眉をしかめる。

「動画で見るよりカワイーじゃねえの」

「・・!あの動画、知ってるんですか・・・」

きっとさっきのハメ撮りの事だろう。一体どこまで拡散されているやら。

「おぉ、お前の元カレが教えてくれてなぁ、楽しませてもらったぜぇ?」

腰を掴まれていた手がするっと下へ移動し、尻を鷲掴まれる。

「ついでに言ってたぜ、名器なんだってなぁ?」

「・・は?」

「それ聞いてから俺達気になっちまって、いてもたっても居られなくてよぉ、ちっと相手してくれや」

何を言っているのか分からずぐるぐると混乱していると、軽々と肩に抱き上げられる。

「待っ・・離せ・・!離さんかい!!」

ばたばたと暴れて抵抗するも、全く歯が立たずあっけなく連れ去られた。

 

どさりと雑に降ろされたのは、潰し重ねられた大きなダンボールの上だった。

遮光の黒カーテンと埃っぽい棚の数々・・・どうやら準備室か何かの部屋のようだ。

嫌な予感で全身の血が引く。その予感に従うように入ってきたドアを目指し駆け出すが、

簡単に捕まり、再びダンボールの上に押し倒される。

「う・・・、いた・・・・っ!」

強い力でぎりりと数人で手足を抑えられ、全く身動きを取れないようにされ、

がちゃがちゃと手早くベルトを外しにかかって来る。

「やめろ・・・頼むて・・やめてくれや・・・・」

小さくカタカタと震えながら、最後の懇願をする。もう、それしかできない。

しかし願いは虚しく、無理矢理脚を開かされ後孔に雑にローションを塗り込み

太い指で具合を確かめるように慣らされる。

「ぅあ・・・っ!」

挿れる指を増やされると、不意に善いところを掠め、背筋が電流を流れてたように弾む。

怖さでぐずぐずに泣いても、中に反応を示して顔を赤らめ、身を捩ったり

生理的な声をあげるおれを見て、周りの男達は舌なめずりをしたり、己の竿を扱いたりしていた。

中を慣らしていた男は一度つぷりと指を抜き、ビキビキと怒張した切っ先をおれの秘口にあてがい、

ひと呼吸置いて差し込んだ。

「ぅ・・・ぐ・・・っ!」

甘い声などあげてやるものかと歯を食いしばり、挿入の衝撃に耐える。

「あ~、あったけぇ・・ふわふわなのにギュゥギュゥ締めつけてくるぜぇ・・・」

好き勝手出入りを繰り返され、はくはくと息を吐きながら虚空を見つめ、ただガクガクと揺さぶられた。

男は嬉しそうに、仲間に感想を言い続けた。

「なるほどなぁ、確かにこりゃ名器だわ・・!」

 

その後散々男達にまわし犯され、ヤリ捨てられて

おれはショックから授業を丸一週間休んだ。

その間ずっとあの動画を探し続け、削除した。どうやら一箇所だけではないようだった。

ついでに髪や眉や服装などの情報を調べあげ、授業で習った知識も総動員し、少し鍛えたりもして

見た目の印象をガラリと変えた。少しでも、あの動画に写っているのはおれだと悟られない為に。

偶然にも休んでいた一週間に成長期が重なり背も少し伸びて、新しい自分も中々様になった。

見た目に合わせて性格も意図的に変えた。

少しでも、ナメられないように、弱く見られないように、とっつき辛いように。

無縁だったSNSに登録し、ちょっとセクシーな自撮りをアップしてみたり、

興味無かった騒がしい動画を大音量のイヤホンを着けて眺めてヘラリと笑んでみたり、

おれに興味ありそうな奴を捕まえてワンナイトに興じまくってみたりもした。

ごくたまに虚しくなったりもしたけど、思いのほかこれはこれで悪くないように思えてきた。

今までとは比べようも無い程自由を感じる。退屈を癒す趣味も格段に増えた。

友達も増えて、おれの世界が大きく広がった気がした。

 

もうじき2年生も終わり、高校生活は残すところあと1年だけど、

せいぜい楽しもうと思う。